AMDロボティクススターターキットを使用してデザインを高速化
(画像:metamorworks – stock.adobe.com)
「ロボットは、数多くのエンジニアリング要素の組み合わせでできています。新しいコンポーネントや要素が加われば、フレームワークにも新しい変化が生まれます。ですから、フレームワークが変わっても高いパフォーマンスを維持することが大きな課題になります。このような変化に適応するために、アダプティブコンピューティングが生まれました。アダプティブコンピューティングは、産業ライフサイクルを通じて、ロボットの応答時間、能力、柔軟性を向上させる最先端のロボットコンポーネントです。AMD Xilinxの Kria™ KR260などに代表されるロボティクススターターキットは、ROS 2によるデザインを効率的に実装するためのビルディングブロックをロボット開発者に提供します。すぐに使える開発プラットフォームが提供されているので、マシンビジョン、AI、ロボティクス、産業、通信、制御などのデザインの評価やプロトタイプ作成を迅速に行い、開発サイクルの短縮を実現することができます。
プロセッサやメモリ、さらには通信機能が高度に統合されたことにより、開発作業はかなり簡素化されましたが、その一方で、自律型ロボットを開発するためのアルゴリズムや技術は、もはやプロセッサボードには収まらない規模にまで増大しています。アダプティブコンピューティングともなると、単純なシーケンサやステートマシン図には収まりません。予期せぬ状況が起きた場合、次にどのような行動方針を取るべきかを機械が判断する上で、AIや機械学習技術が重要になるからです。
最近では、高度に統合されたSoC(システム・オン・チップ)、SOM(システム・オン・モジュール)ソリューションによって、より少ないスペースでより高度な機能が実現できるようになりました。SOMは、プロセッサ、I/O、有線/無線インターフェイス、オンボードメモリ、電源管理ユニット、セキュリティなどを小型フォームファクターボードに組み込むことができます。これにより、Wi-Fi®、USB、ビジョンインターフェイス、ネットワークペリフェラルなどの基本機能の設計、プロトタイプ作成、テスト、およびデバッグにかかる時間をすべて削減することができます。
ロボット開発で極めて重要となるのは、どのセンサを利用し、ロボットがそのセンサデータをどのように解釈し、どのような判断を導くのかという点です。この問題は自律移動ロボットに限られたことではありません。労働者の減少やサプライチェーンの問題によって製造スケジュールが大幅に変動する昨今、工場用ロボットや産業用機器もこの課題に対応できなければなりません。
朗報として、個別のタスクや連携したタスクが実行できる、シングルコアまたはマルチコアの強力なプロセッサが数多くあり、活用することができます。これらのプロセッサでは、オープンソースや開発済みソフトウェアを実行することができるので、設計者はさまざまなアプローチを迅速に評価し、必要に応じてアルゴリズムを改良することができます。
ROS 2などのロボットオペレーティングシステムは、ナビゲーション、モーションコントロール、マシンビジョン、さらにはRVISのような3D可視化ツールなど、危険の特定・回避の実装に役に立つ要素技術のためのソフトウェアライブラリとツールを提供します。ただし、開発者はその中からアプリケーションに最適なものを選択しなくてはなりません。
例えば、ナビゲーションの表示やデータ解読には、高画質ビデオシステムと照明を実装するのか。距離測定と物体回避には、LiDAR(ライダー)、反射型光学、コンタクトスイッチ、超音波距離測定のうち、どれを採用するのか。いずれのアプローチも可能であり、しかもモジュール式のテクニカルキットがあるので、テクノロジーのプロトタイプ作成、テスト、評価も可能です。
一般に、複数のテクノロジーを組み合わせることで、それぞれの利点が活かされ、テクノロジーを単独で使用するときよりも、優れた効果が生まれます。例えば、ハイエンドプロセッサと高性能FPGAを組み合わせれば、FPGAで可能なハードウェアによるタスクの高速化(ハードウェアアクセラレーション)がプロセスの固定プログラム性能に利用できるようになります。これにより最終製品の性能が向上するだけでなく、設計者は大幅な再コーディングやボードレイアウトを繰り返す手間が省け、さまざまなアプローチを迅速に実験し、検証することが可能になります。
アダプティブ コンピューティングは、ロボットアプリケーションの要求の変化に対応します。新しい課題に安全で効率的かつインテリジェントに適応するためにも、アダプティブ コンピューティングは信頼できるルールと問題解決技術のベースを必要とします。
AMD Xilinx Kria KR260ロボティクススターターキットは、ロボット向けの高度なプラットフォームを提供し、アダプティブ コンピューティングを実現します。Kria KR260は、アプリケーション処理用のArm®コアと、Kria K26 SOMが提供するリアルタイム処理や制御用のプログラマブルロジックを統合し、ビルド済みインターフェイスを搭載しているため、ロボットや産業用アプリケーションのプロトタイプ作成が迅速に行えます。Kria K26 SOM(図1)は、コマーシャルグレードとインダストリアルグレードがあり、ロボット、エンベデッドビジョン、マシンビジョンなどのアプリケーションの量産対応に最適です。
図1:AMD Xilinx Kria KR260 ロボティクススターターキットは、高性能な産業用インターフェイスを搭載し、インテリジェントな自律型ロボットのテスト・評価のための各種機能を搭載しています。(画像:マウザー・エレクトロニクス)
開発を開始するには、専用ツールやAMD Xilinxの開発用ソフトウェアは必要ありません。AMD Xilinx社によれば、エントリーレベルの開発者でも1時間足らずでアプリケーションを動作させることができるとしています。AMD Xilinx Apps Store では、ROS 2 パーセプションノードなどのアクセラレーションアプリケーションを提供しており、ROS 2フレームワークやPython、C++、FPGA RTLのコードが使用できます。
スターターキットは、AMD Xilinx K26 SOMをベースとしており、4GBのDDR4メモリ、オンボード電源、ブートオプション、セキュリティ強化のためのTPM 2.0、キャリアカードをIOマッピングするコネクタを搭載しています(図2)。さらに、最大クロックは1.33GHz(TOP)です。この速度のロジックは、コード駆動の意思決定よりも一貫して優れています。K26 SOMは、ビジョンAI、ロボット、産業用通信/制御など、特定のアプリケーション向けに設計されたキャリアカードにプラグインできます。
図2:高度に統合された KR260 ロボティクススターターキットには、通信、コンピューティング、センサインターフェイス、モーションコントロール、アダプティブラーニング向けの多くのハードウェアリソースが搭載されています。(画像: AMD Xilinx)
またキットは、標準JTAGプログラミングおよびデバッギングインターフェイスを備えているため、4xUSB 3.0などの多様な組み込みポートやペリフェラルへのアクセスが可能で、SLVS-ECなどのカメラインターフェイスや、5Gポートのような最大 10GB/秒の通信速度のインターフェイスに使用できます。解像度1920 x 1080の内蔵ディスプレイポートは開発にもデバッグにも非常に役立ちます。2つの産業用イーサネットポートにより、モーター制御や位置フィードバックシステムなどのイーサネット対応ペリフェラルへの高速有線接続が可能になります。
複数のMicro USB、UART/JTAG、Pmod、Raspberry Pi拡張ヘッダは、多数の低帯域センサや動作中のインジケータとのインターフェイスに最適です。これらの開発ボードにはMicro SDスロットが内蔵されており、開発やデータロギングに使用することができます。
テクノロジーが進歩するなか、エンジニアが開発に使用するツールも進歩しなければなりません。Kria KR260ロボティクススターターキットは、自律型ロボット開発を始めるのに最適なツールです。
今回ご紹介したハードウェアアクセラレーションは、設計・開発時間を短縮するだけでなく、コードのみを実行するアプローチよりも最終製品のパフォーマンスをはるかに高速化できます。KR260 は、ロボット向けの機能と性能を備え、K26 SOM ベースの量産に対応する優れた開発プラットフォームとして、あらゆるロボットやインテリジェントな産業アプリケーションの高速化を実現します。
Jon Gabayは、電気工学で学位を取得後、防衛、商業、工業、コンシューマ、エネルギー、医療などの分野の各企業にて、設計エンジニア、ファームウェアコーダー、システム設計者、科学研究者、製品開発者として活躍。Dedicated Devices Corp.を設立し、代替エネルギーの研究者、発明家として、オートメーション技術に携わり、2004年まで同社を経営。以降は研究開発、記事執筆、次世代エンジニアや学生のための技術育成に従事。
Xilinxは、エンドポイントから、エッジ、クラウドに至るまで、多種多様なテクノロジで迅速なイノベーションを可能にする、極めて柔軟なアダプティブプロセッサおよびプラットフォームを開発しています。Xilinxはプログラマブルロジックデバイスを開発する半導体製造企業であり、同社が発明したテクノロジには、FPGA、ハードウェアプログラマブルSoC、ACAPなどがあります。