Wi-Fi® は、20年以上にわたり主要な無線ネットワーク技術となってきました。その速度と通信範囲を向上させ、年々大きく進化しています。大量のデータを迅速に処理できるWi-Fiは、ストリーミングビデオのような高帯域幅アプリケーションにうってつけの選択肢です。
モノのインターネット(IoT)とスマートホームの普及に伴い、Wi-Fiの重要性は高まるばかりです。ただし、どんな無線技術にも限界があります。Wi-Fiは主に高スループット用に設計されているため、消費電力が高く、スマートホームやIoTエコシステムに見られる低電力デバイス、バッテリ駆動型のデバイスに使用するには制限があります。それでも、Wi-Fi 6規格のリリースや、Matter規格とThreadプロトコルの相互運用性によって、こうした限界は緩和されています。
幸いWi-Fi 6規格には、スループットを犠牲にしてバッテリ寿命を延ばす省電力技術が盛り込まれており、動作条件は改善されています。直交周波数分割多元接続(OFDMA)と呼ばれるマルチアクセス変調技術を使用することで、Wi-Fi 6の各20MHzチャンネルを多くのサブチャンネルに分割できるので、同時にサポートするデバイス数を大幅に増やすことができます。こうした機能強化により、Wi-Fi 6はセキュリティカメラ、スマートサーモスタット、スマートスピーカーといったスマートホーム家電に適した選択肢となりました。
さらにWi-Fiは、スマートホームエコシステムに相互運用性をもたらす新規格Matterにおいて、根本的な役割を果たしています。MatterはThreadを採用し、必要なスループットが増えるとWi-Fiを使って低電力無線接続を行い、その結果、より多くの電力が利用可能になります。また、コミッショニング用に有線イーサネット規格と Bluetooth® Low Energyにも対応しています。Matterに採用された他のプロトコルと組み合わせることで、Wi-Fiは実質的にネットワーク層の通信規格であるインターネットプロトコル(IP)をサポートできるようになり、インターネット上でデータの高速転送が可能になります。こうしたIPとの相互運用性によって、各スマートホーム製品はクラウドに非常に接続しやすくなり、とても強力で柔軟性の高いスマートホームアプリケーションが実現します。
Matterは、Apple、Amazon、Google、Nordic、Samsung、その他数百社から支援を受け、これまでバラバラだったスマートホーム分野に構造をもたらします。今後はどの大手サプライヤーのスマートデバイスを購入しても、自分の好きなスマートホームエコシステムに容易に統合できるようになるでしょう。これは、消費者に付加価値のあるスマートホームサービスを提供して、デバイスの販売収益を拡大させたいという大手サプライヤーの意向にも沿います。Vantage Market Research1によると、スマートホーム部門の年間売上は2020年の750億ドルから、2028年には5.5倍増の4,200億ドル超に増加すると予想されています。その総額の一部として、Wi-Fiベースのスマートホームデバイスの出荷数は、2021年から2025年にかけて年平均成長率21%で増加する見込みです。
Threadは、IoT向けに設計された比較的新しいプロトコルです。低消費電力デバイス用に最適化されたIPベースのプロトコルで、バッテリ式のスマートホームデバイスに絶好の選択肢です。非常に信頼性が高く安全な設計であるため、セキュリティへの懸念があるアプリケーションには理想的なオプションです。
Wi-FiとThreadは異なる技術であり、競合しません。実際、これらを併用してより堅牢なIPネットワークを構築することができます。たとえば、Matter規格に記載されているように、Wi-Fiはスマートテレビやストリーミングデバイスといった高帯域幅デバイスの接続に使用できますが、Threadはスマートサーモスタットやセンサのような低消費電力デバイスに使用できます。
Wi-FiとThreadを併用する利点のひとつは、より柔軟なIoTシステム設計が可能になることです。例えば、高速接続が必要なデバイスにはWi-Fiが、低電力動作が必要なデバイスにはThreadが適しているかもしれません。両方の技術を使用することで、設計者はシステムを調整して、各デバイス固有の要件を満たすことができます。
Wi-FiとThreadを併用するもう一つの利点は、ネットワークの信頼性が向上することです。Wi-Fiは干渉を受けやすいですが、Threadを低電力デバイスに使用すると干渉のリスクを抑え、より信頼できるネットワークを開発できます。
Wi-FiとThreadはどちらもIoT用のIPネットワークの構築には絶好のオプションです。IoTが成長を続けるなか、スマートデバイスのIPネットワーク構築の独自の課題に対応するため、ますます多くのプロトコルや技術が登場するでしょう。
Nordic Semiconductor の nRF7002 Wi-Fi 6コンパニオンIC と関連開発キット(DK)は、革新的な低電力IoTアプリケーションを容易に実現し、スマートホーム分野でますます重要な役割を果たすWi-Fiを活用できるようにします。このICは、シームレスなデュアルバンド(2.4GHz、5GHz)接続を提供する低消費電力Wi-Fi 6デバイスです。nRF7002は、Bluetooth Low Energy、Thread、Zigbee無線との優れた共存性を備え、Wi-Fi 6の主要な省電力機能であるTWT(Target Wake Time)をサポートしています。DKは nRF5340 SoCホストプロセッサを搭載しているため、nRF7002ベースの開発を簡単に始められます。nRF5340マルチプロトコルSoCは、ThreadとBluetooth Low Energyをサポートしており、Matter規格のどの無線技術を使用する開発にも適しています。
スマートホームの人気が高まり普及が進むなか、デバイスがシームレスに連携することは極めて重要です。Wi-FiのIPとの相互運用性とMatter対応はその成功に根本的な役割を果たすでしょう。Wi-Fi 6とThreadの省電力機能を利用し、Matterの相互運用性を活用することで、パワーと柔軟性、エネルギー効率を兼ね備えたスマートホームデバイスが実現するでしょう。
Nordic Semiconductorは、クラス最高レベルのワイヤレス性能と高度技術を手ごろな価格で提供し、コストが極めて重視される消費者製品でも超低電力(ULP)ワイヤレスチップを採用できるようにしています。Nordic Semiconductorのチップは、ワイヤレスPC 周辺機器、ゲームコントローラ、スポーツ/フィットネス・センサ、玩具、先進マルチメディアコントローラ、デジタル/衛星TV(セットトップボックス)リモコンなど、その他多くの製品に採用されています。