執筆:Alex Pluemer(マウザー・エレクトロニクス)
協賛:Amphenol ICC、Intel
シームレスな5G接続に向けて
5Gによってモバイル通信は新たな時代に突入しましたが、5Gに期待できるのは「高速ダウンロード」や「超低遅延」だけではありません。高帯域幅とカバレッジの拡大により、5Gはそれまでの携帯電話の枠を超えて、ノートパソコンやモバイルIoT機器、自動車、さらには大規模な産業用設備にいたるまで、モバイル通信の新たなユースケースを拡大することが期待されています。業界の予測によると、今後4Gからの乗り換えがますます進み、2020年代半ばまでには5Gネットワーク加入者数は10億人を超えると言われています。
しかし、5Gへ移行するには、新しい携帯通信インフラへの大規模な投資が不可欠です。5Gアーキテクチャーは、これまでのものとは大幅に異なり、 その変化をもたらすものこそ、4Gから進化した5Gの重要な特性であると言えます。ここではその重要な特性が5Gシステム向けデータプラットフォームアーキテクチャーにどのように影響しているのかに目を向け、さまざまなレベルのデータプラットフォームについて見ていきながら、代表的な実装オプションを紹介します。また、ミッドレンジのデータプラットフォームを例に取り上げ、設計上の重要な選択とトレードオフについて明らかにしていきたいと思います。
5Gの特性とネットワークアーキテクチャー
ローバンド(低周波数帯)の5G基地局は、4Gと同等の周波数帯(600MHz〜850MHz)を利用し、同等の通信範囲とダウンロード速度(30Mbit/s〜250Mbit/s)を実現しています。そのため、ローバンド5Gは、すでに世界中の多くの地域で徐々に廃止されつつあります。それに対して、中周波数帯のミッドバンド5Gは、2.5GHz〜3.7GHzのマイクロ波を使用し、カバレッジを数マイル拡大させながら、ダウンロード速度も100Mbit/s〜900Mbit/sと大幅に向上させています。ミッドバンドの5G基地局は、大都市など人口の多い地域ではすでに標準となっており、これが世界標準となるのはもはや時間の問題かもしれません。
一方、高周波数帯のハイバンド5Gは、現在25GHz〜39GHzの周波数帯を使用し、ケーブルインターネットサービスとほぼ同じ約1Gbpsのダウンロード速度を実現しています。ただし、ハイバンド5Gには限界があります。25GHz〜39GHz帯はミリ波帯の低域にあたりますが、ミリ波はマイクロ波よりも範囲が狭いため、ミッドバンド5Gと同じエリアをカバーするには、より多くのセルが必要になります。また壁や家電などの物理的な障害物があると、ハイバンド5Gの接続が制限されることがあります。またミリ波は固体を透過しません。さらにハイバンド 5Gは、低周波技術に比べて コストが高く、 そのため当面はコンサート会場やスポーツアリーナなどの比較的多くの人が集まる施設に限定されるかもしれません。
ハイバンド5Gは壁や障害物によって接続が制限されるため、利用できるエリアはスポーツアリーナなどに限られるかもしれません。(画像:Alida Latham/Danita Delimont - stock.adobe.com)
5Gデータプラットフォームのピラミッド
実装に向けて5Gの階層を決定する際には、カバレッジ範囲、ダウンロード速度、コスト効率などの要因を考慮する必要があります。5G分散型データプラットフォームでは、コスト、電力、ネットワーク性能、動作範囲、ユーザー機能などを最適化できるよう、データ処理、ストレージ、通信をさまざまなレベルのアーキテクチャー階層に配置しています。ネットワークエッジに最も近いのは、ビルや施設内の数十メートルほどの短い距離をカバーする小型プラットフォームです。一般的な用途には、ビルオートメーション、セキュリティ、工場現場モジュールの監視・制御などがあります。エッジデバイスの上のレベルには、アグリゲーションプラットフォームがあり、すべてのエッジデバイスをつなぎ合わせて、約100メートルの範囲におよぶデータトラフィックを統合し、最適化します。このデバイスは、ビルや小規模キャンパスなどに設置され、通信の分析、フィルタリング、統合、優先順位付けを行っており、それにはよく人工知能(AI)が活用されています。
中間プラットフォームは、大規模なコアデータセンターのすぐ下のレベルに位置し、より迅速な応答を実現します。応答はコアによって、アルゴリズムに基づき選択され、定期的に更新されます。この中間プラットフォームが、エッジに近いプラットフォームに求められるリアルタイム制御を提供しています。このプラットフォームによるデータ分析やトラッキングにより、データ価値が生まれ、プラットフォームプロバイダーは新たな収益源を得ることができます。また、ユーザー側も、予知保全、材料のトラッキングやルーティング、システム管理、データトラフィックの負荷分散など、さまざまな運用にかかるコストの削減(利用料、または削減分の一部のみ負担など)が可能になります。
ビッグデータの運用は、コアデータセンタープラットフォームで行われます。この大規模なデータの処理・蓄積施設には、何年にもおよぶ運用履歴や複雑な機械学習アルゴリズムが蓄積されており、最適化フィルタとプロセスによって中間プラットフォームをプログラムすることにより、迅速な応答を実現し、ユーザーに付加価値を提供します。
データセンタープラットフォームの種類と特性
5Gの各階層について、設計にはさまざまな要件とトレードオフがあります。
FPGAを使ったアグリゲーションプラットフォーム
ここでミッドレンジのアグリゲーションプラットフォームを取り上げ、重要な機能がデバイス内にどのように実装されているのか見てみましょう。マイクロコントローラを内蔵したFPGAを採用することにより、デバイスはマイクロコントローラから動作を開始し、起動や更新を安全に行うことができます。堅牢で保護された暗号化、復号化、セキュリティキー保管操作などの機能が、ハッカーやウイルスによるシステムの乗っ取りを防止します。マイクロコントローラは、通信、パケット処理、動画処理、圧縮、ストレージ効率化などの標準的な操作に対応します。オンチップFPGAハードウェアは、高い処理能力を要する、特殊な操作に使用することにより、迅速な処理が求められる一般的な機能にMCUを振り分けることができます。
画像:FlashMovie - shutterstock.com
FPGAは、デジタルフィルタリング、画像処理、画像認識などの特殊な処理に使用し、必要に応じてAI・機械学習アルゴリズムを併用すれば、ハードウェアを予測し、プログラムすることができます。将来的に、中間プラットフォームやコアプラットフォームから新しいアルゴリズムを発見し、作成し、ダウンロードすれば、さらに性能を最適化させることができ、プラットフォームプロバイダーには新たな収益をもたらし、ユーザーはコストの削減が可能になるでしょう。
5Gは、クラウドから、コア、エッジまでを統合します。しかし、それぞれが適切な種類のインフラで動作し、またそれにアクセスできることが重要です。5Gではエッジコンピューティングが重視されていますが、コアは常に必要です。また、5G通信の急速な普及と、5G対応端末数の増加に伴い、端末のための小・中規模の分散型データセンタープラットフォームの必要が高まっています。コアからエッジにいたるまでのコンピューティングこそ、5G対応の世界の特徴であると言えるでしょう。サーモスタットや冷蔵庫から飛行機、電車、自動車にいたるまで、すべてが携帯電話と同じネットワークでつながる世界。私たちは今、そんな新しい世界へと足を踏み出しているのです。