ニューテック・チューズデー マウザー技術エキスパートのルディ・ラモスが、毎週、設計エンジニアにとって興味深い「旬の」トピックを取り上げます。
動体検出とは、時間の経過とともに物体の位置が変化したことを検出する機能を指します。これには、赤外線センシング、音響センシング、画像処理など、さまざまな手法が使われています。
人間は、視覚や前庭神経を使って動きを認識しています。脳が目や内耳からの情報を捉え、視野に起きた変化を検出して、動きを検知します。これと同じように、受動型赤外線(PIR)モーションセンサ(人感センサ)も、絶対零度を超えるあらゆる物質から放出される赤外線(IR)を捉え、その変化を検出します。
PIRモーションセンサは主に、赤外線を検出する焦電センサと、赤外線をセンサに集光する光学レンズの2つの部分で構成されます。PIRセンサは視野内の物体の温度と表面特性を測定し、赤外線(放射熱)の変化量を検出します。受動型赤外線(PIR)の「受動型」とは、デバイスが動きを検出するのにエネルギーを放出しないことを意味します。その代わりに、視野内の物体から放出または反射された赤外線の変化量を検出します。例えば、壁などの背景の前を人などの物体が移動すると、センサの視野内にあるその地点の温度は室内温度から人の体温まで上昇し、再び元の温度に戻ります。センサは入射する赤外線のこの変化量を入力電圧に変換し、警報システムなどに検出信号を発信して、動きがあったことを知らせます。PIRモーションセンサは、セキュリティシステム、照明制御など、動体検出が求められるアプリケーションで一般的に使用されています。また、温度が同じでも表面特性が異なる物体は、赤外線放射パターンが異なることがあり、背景に対して動きがあったときに動きを検出します。
PIRモーションセンサ市場は急速に成長しており、セキュリティシステム、照明制御システム、HVACシステム、スマートホーム機器など、幅広いアプリケーションにわたり拡大しています。スマートホームやビルオートメーション向け製品の需要が伸びていることから、今後も市場の拡大1が期待されています。
今週のニューテック・チューズデーでは、動体検出ソリューションにおいて重要な機能を担う、ams OSRAM社のP1616赤外線エミッタとSTマイクロエレクトロニクス社のSTEVAL-BLUEPIRV1モーションディテクタについてご紹介します。
ams OSRAM SFH 4172 OSLON® P1616は、透明なシリコンパッケージに収められた高出力赤外線エミッタです。重心波長850nm、動作温度範囲-40°C〜105°C、ESD 定格2kVを備えています。P1616センサは、入退出管理・セキュリティ、ボディトラッキング、ホーム/ビル/工場の自動化、ビル照明などのアプリケーションに最適です。
STマイクロエレクトロニクス STEVAL-BLUEPIRV1評価ボードは、PIRセンサをベースとし、Bluetooth® Low Energy無線通信機能を搭載したワイヤレスモーション検出器です。村田製作所のIRA-S210ST01を採用しており、検出範囲は最大5mです。1つのCR2032コイン電池で約1年の寿命が期待できる低消費電力を重視した設計になっています。
人間は複雑なプロセスを経て動体を認識しますが、PIRセンサはあらゆる物体から放出される赤外線の変化量を検出してそれを行います。スマートホーム、ビルオートメーション、セキュリティシステムの需要の急増に伴い、PIRモーションセンサ市場は拡大しています。この需要に対応するために、今回ご紹介したams OSRAM社やSTマイクロエレクトロニクス社の製品のような、高感度化、低電力化、低コスト化を実現するモーションセンシングソリューションの開発が今後もますます求められることでしょう。
1. Fact.MR. Accessed January 18, 2023. https://www.factmr.com/report/pir-sensor-market.
マウザー・エレクトロニクスのテクニカルコンテンツマーケティング部門メンバー。高度電気機械システム、ロボット、空気圧、真空システム、高電圧、半導体製造、軍事ハードウェア、およびプロジェクトマネジメントにおいて35年以上におよぶ経験を持つ。技術担当エキスパートとして、幅広い製品知識に基づき、マウザーウェブサイトの技術コンテンツの執筆・編集を担当し、グローバルマーケティングに貢献。また、各種エンジニアリング系サイトにて技術記事を執筆。テクニカルマネジメント専攻BS(理学士)、プロジェクトマネジメント専攻MBA取得。マウザー以前は、ナショナルセミコンダクター、テキサス・インスツルメンツにて勤務。