(画像提供:Nikolay N. Antonov - stock.adobe.com)
組み込みシステムは、サーバーはもちろん、最新のパソコンほどの処理能力もないかもしれませんが、デバイスの数が膨大であるため、不正なボットネットや暗号通貨マイニングの格好の標的になっています。組み込みシステムの設計者にとって、セキュリティへの最初の大きな警鐘となったのは、2016年のネスト社製サーモスタットへのボットネット攻撃でした。これが消費者向けIoT製品であったことから、当時、プライバシーとセキュリティに対する意識の高まりもあり、ネスト社のボットネットは大きな議論を巻き起こしました。ただし、こうした議論は、企業はどうすれば低価格のIoT製品にセキュリティを組み込めるのか、消費者はどうすれば家や職場で安全にIoTを利用できるのかという点に終始しがちでした。
サイバー攻撃の脅威がますます激化する今日、開発者は設計プロセスを通じてセキュリティへの配慮を怠らないことが極めて重要です。以下にご紹介する実践的なヒントと推奨事項に従うことで、さまざまな攻撃シナリオから機器を守ることができます。この記事では、開発者が組み込み設計に採用できるセキュリティ対策の概要について解説したいと思います。
チップのアーキテクチャ、OS、通信プロトコルは数多くありますが、IoTデバイスの多くはArm®ベースのアーキテクチャを中心に構築され、動作するOSもLinux ディストリビューションであることが多いようです。このような共通性には、コストの削減や開発期間の短縮など、多くのメリットがありますが、同時に多くのマイナス面もあります。特にLinuxベースのOSを搭載したデバイスの場合、1つの攻撃ベクトルですべてを攻撃できることになります。共通のアーキテクチャを持つ多くのデバイスへの脅威を軽減するには、開発者は次の効果的なセキュリティ設計原則を実践する必要があります。
デバイスへの物理的なアクセスが、デバイスにとって致命的になることがあります。しかし、このような物理的なアクセスを防ぐ方法がないわけではありません。回路基板やエンクロージャーの耐タンパー性を向上させる方法については何冊もの本が書かれていますが、素早く成果を上げる方法としては、次の物理設計の鉄則に注意して、デバイスの強化を図ることをお勧めします。
以下の推奨事項の中には、消費者向けIoTデバイスには少し難しいものもあるかもしれません。しかし、後ほど説明するように、産業用制御システムや防衛システムでは、こうしたより堅固な物理的セキュリティ対策が有効になります。
セキュリティとオープン性というパラダイムには、相対立する概念があることに注意する必要があります。セキュリティに大切なのは難解であること、 それに対して、オープンハードウェアに大切なのは理解しやすいことです。いずれにせよ、「鍵は正直者だけのためにある」という古い格言がありますが、これはセキュリティ全般に言えることです。安全なIoTデバイスを構築する方法についてさらに詳しくは、OWASP (Open Web Application Security Project) IoTプロジェクトにアクセスしてください。
たとえメーカーが最高の安全設計原則をすべて製品に実装できたとしても、エンドユーザーがそのデバイスを安全に操作できなければ、すべてが水の泡になります。
消費者向けIoT製品は数多くありますが、産業用のIoT製品は、産業用制御システム (ICS) と呼ばれ、極めて重要で潜在的に危険なプロセスを数多く管理します。エネルギー生産から工場まで、こうしたさまざまなプロセスを実行する設備や関連機械を制御するために、組み込みデジタル技術 (オフィスを中心とした情報技術 (IT) に対し、オペレーショナルテクノロジー (OT) と呼ばれる) が使用されています。ICS環境は厳密な意味でのIT環境とは大きく異なるため、OTデバイスやICSネットワークを強化するには特別な配慮が必要です。最も基本的な原則とは、ICSをインターネットに接続してはならないということです。これは当たり前のことにように思えますが、この基本なルールは驚くほど頻繁に破られています。ICSネットワークとデバイスを保護する方法については、ICS向けMITRE ATT&CK とエンタープライズ向けMITRE ATT&CKという2つのセキュリティフレームワークがありますので、参照してください。
ICSシステムが通常導入されている環境の性質 (例えば、環境的、化学的、またはその他の危険性のある場所) からもわかるように、ICSは機密性よりもシステムの可用性を優先するように設計されています。つまり、積極的な見方をすれば、通常、システムには冗長性があり、システムが故障しても安全が確保されるように設計されています。しかし、ICSシステムは、何十年も運用され続けていても、常に最新の状態に保たれているとは限りません。さらに、プロトコルの多くは古いもので、効率性を重視して構築されており、セキュリティは考慮されていません。結論としては、ICSやIIoT分野でのセキュリティには、独特な難しさがあり、ベストプラクティスの実行は難しいのかもしれません。しかし、今後、このような機器の組み込み開発者は、最新の設計手法を取り入れ、セキュリティは後から追加するのではなく、設計に組み込む必要があることを認識しておくべきでしょう。
マイケル・パークス:カスタム電子機器設計スタジオ・組み込みセキュリティ研究会社Green Shoe Garage (米国メリーランド州) の共同設立者。科学的・技術的トピックに対する社会の意識向上に向けてGears of Resistance Podcastを制作。メリーランド州プロフェッショナルエンジニア (P.E.) 資格を取得、ジョンズ・ホプキンス大学にてシステム工学で修士号を取得。